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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)77号 決定

抗告人

松本すみ子

抗告人

六建工業有限会社

右代表者

尾関銘作

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

抗告人松本すみ子の抗告理由は別紙(一)のとおりであり、抗告人六建工業有限会社の抗告理由は別紙(二)のとおりである。

抗告人松本すみ子の抗告理由五および抗告人六建工業有限会社の抗告理由四について、

記録によれば、本件競売の目的土地(以下本件土地と表示する)は、いずれも登記簿上は農地(田)として表示されており(記載四一丁、四五丁参照)、第一回の競売および競落期日公告(以下競売期日公告と表示する)(昭和四九年七月二四日付)および第二回のそれ(同年九月二五日)には、いずれも本件土地を「田」として表示し、かつ、売却条件として農業委員会または県知事の適格証明書を有する者に限り競買申込ができることおよび最高価格競買申込人は、競落期日までに農業委員会または県知事の所有権移転許可書を提出しないと競落を許可しない旨が定められていた(六六丁、七二丁参照)。しかるに第三回の競売期日の公告(昭和五〇年一月八日付)においては、右条件は付せられておらず、一方、本件土地の表示として「(現況宅地)」なる文字が書き加えられている(七七丁、七八丁参照)。

ところで本件土地がどのような経過により昭和四九年九月二五日の第二回競売期目公告の日から、昭和五〇年一月八日の第三回競売期日公告の日に至るまでの間に農地から宅地に変更したかという点については、これを明らかにする資料は、記録上全く見出すことができない。かえつて、昭和四九年七月一九日付鑑定人安本美喜男作成の評価書によれば、本件土地は、既に現況粗造成地(現況宅地)であつたと認められる(六一丁ないし六五丁参照)。そうだとすれば、本件土地は既に第一回の競売期日において、これを現況宅地として扱うべきであつたのであり、本件第一、二回の競売期日にこれを農地として表示し、かつ、売却条件として買受人人の資格を制限したことは、違法たるを免れない。そして、このような競売期日において、許すべき競売価額の申出がなかつたからといつて、次の競売期日において、最低競売価額を低減することはできないと解すべきであるから、本件競売の最低競売価額は、右評価書に則り、本件土地中一〇七二平方米の土地ついては金一二八六万四〇〇〇円、九八八平方米の土地については金一一八五万六〇〇〇円であつたといわなければならない(六一丁ないし六六丁参照)。しかるに本件競売は最低競売価額を、前記一〇七二平方米の土地につき金九八五万円、九八八平方米の土地につき金九〇七万八〇〇〇円と定めて行なつたものであるから、このような競売手続に基づいてなされた本件競落許可決定は、競売法の準用する民訴法六七二条第三にいう「法律上ノ売却条件ニ牴触シテ競買ヲ為シタル」場合に該当するものとして違法たるを免れない。よつて原決定を取消し、かつ、本件競落を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(室伏壮一郎 小木曾競 深田源次)

別紙(一)  抗告の理由

一、―四、《省略》

五、尚被抗告人(競落人)は農地の適格証明者に該当しないので競落許可決定は失当である五〇年一月八日付公告の記載洩れである何となれば抗告人は第一回競売日に執行官室に出頭したところ農地のため適格証明者でなければ参加出来ない旨申渡された

別紙(二)  抗告の理由

一、―三、《省略》

四、本件競売においては競売価格を定めるに当初は農地・田として(現況はたとえ疎造成地であつても宅地であつても)公告し、宅地と変更後もその儘農地の最低価格として競売されたため全く低廉な所謂二足三文で競買されたもので、この場合は同裁判所において宅地としての再評価の上これを変更して公告の上競売すべきものであるにも拘わらず再評価することなく、前記の如く田の価格をもつて競売しこの全く社会通念上も経験則上も市場価格から見て優に一平方メートル二万五、〇〇〇円本件土地二筆計二、〇六六平方メートル合計金五、一六五万円程度のものを僅か一、八九二万八、〇〇〇円で競買されたものである。

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